うというのか。ではサッサと行くがよい。行け行け行け、かまわない。……ハッハッハッ、勘右衛門殿、はしたない[#「はしたない」に傍点]ではござりませぬか。いかさまお菊殿はあなたにとっては、自由《まま》になるご内儀でござりましょう。が、しかしご内儀のお菊殿から云えば、自分一人だけの勝手の用事も、自らあろうというもので。そこまで掣肘《せいちゅう》をなさるのは、少しく横暴でござりますよ」
 ――と、このように云うことによって、京助を勘右衛門から立ち去らせ、怒って焦燥して執念深く、尚も京助を追いかけようとする、勘右衛門を抑えて動かさなかった。――で、事件は解決された。
 が、この武士は何者なのであろうか?
 旗本の次男の杉次郎なのであった。

 根津仏町|勘解由店《かげゆだな》の、一軒の家の階下の部屋で、話し合っている武士があった。
「アラの神は讃《たた》うべきかなさ」
 こう云ったのは老いたる武士であった。
「もっと讃うべきものが厶《ござる》」
 中年の武士が皮肉そうに云った。
「さようさようアラの神よりも、もっと讃うべきものが厶。が、そいつは残念にも、容易に手には入らないようで」
「そこでいよ
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