捻じ合いひしめき合うのであった。
京助としては当然と云えよう。
こんなように京助には思ったのであるから。――
(こうも旦那が執念深く、奪い返そうとしているからには、小さいけれど包物の中には、素晴らしく大切な値打ちのある物が、入っているに相違ない。そうしてそれは奥様にとっては、一大事な物に相違ない。ひょっとかすると秘密の物かもしれない。もしも旦那に取り返されようものなら、奥様は絶望をして病気になって、京助や京助やとご機嫌よく、私を呼んでくださらないかもしれない。で、どのように頑張っても、旦那に包物は渡されない)
――で、喚きを上げながら、勘右衛門と捻じ合いひしめき合うのであった。
いかにひっそり[#「ひっそり」に傍点]とした町とは云っても、大家の旦那とも思われる、非常に立派な老人と、大店の手代とも思われる、綺麗なお洒落の若い男とが、衣紋を崩して喚き声を上げて、往来《みち》の中央《まんなか》で人目も恥じないで、一つの包物を取ろう取られまいと、捻じ合いひしめき合っているのであるから、往来《ゆきき》の人達は足を止め、店から小僧や下女や子供や、娘やお神《かみ》さんや主人までが、飛び出して
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