その勢いは凄じいほどで、京助の持っている包物の価値が、どんなに大きいかということを、証拠立てるに足るものがあった。
 しかし勘右衛門は老年ではあるし脂肪太りに太ってはいるし、その上に走って来たためか、その息使いは波のように荒くて胸の鼓動も高かった。今にも仆れそうな様子なのである。
 そうしてそのようにも苦しいのに、その苦しさを犠牲にして、どうでも包物を取り返そうとして、身もだえをするありさまと来ては、むしろ悲壮なものがあって、そうしていよいよ包物の価値の、偉大であるということを、証拠立てるに足るものがあった。
「よこせよこせ包物をよこせ! いやお願いだ返してくれ。怒りはしない、頼むのだ! どうぞどうぞ返してくれ!」
 ――で、無二無三に引ったくろうとする。
「私こそお願いいたします、どうぞ[#「どうぞ」は底本では「そうぞ」]旦那様お許しなすって! 包物はお渡しいたしません。奥様のお云い付けでございますもの。……持って参らなければなりません! はい、奥様のお云い付けの所へ!」
 京助は京助でこう喚《わめ》きながら、胸に抱いている包物を、どうともして取られまい取られまいとして、勘右衛門と
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