、駄菓子屋だの荒物屋だの八百屋だのの、店先をカッと明るめていた。妙にひっそりとした往来《まちどおり》であって、歩いている人影もまばらである。赤児の泣き声が聞こえてきたり、犬の吠え声が聞こえてきたりしたが、それさえ貧しげな町の通りを、寂しくするに役立つだけであった。
(ここから根津へ行こうとするには、どう道順を取ったらよかろう? ……雉子《きじ》町へ出て、駿河台へ出て、橋を渡って松住町へ出て、神田神社から湯島神社へ抜けて、それから上野の裾を巡って、根津へ行くのがよさそうだ。どれ)
と、云うので足を早めた。
しかし半町とは歩かない中に、京助は仰天して足を止めた。
怒気に充ちた顔を夕日に赭《あか》らめ、膏汗《あぶらあせ》の額をテラテラ光らせ、見得も外聞もないというように、衣裳の胸や裾を崩して、こちらへ走って来る勘右衛門の姿が、忽然と眼の前へ現われたからであった。
「京助!」と、勘右衛門は呻《うめ》くように云った。
旗本の次男杉次郎
そう勘右衛門は呻くように云って、やにわに京助へむしゃぶり[#「むしゃぶり」に傍点]付くと、京助の持っている包物《つつみ》を、奪い取ろうと手をかけた。
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