小さな包物《つつみ》を見詰めたが、
「ちょっとそいつを見せてくれ」と近寄りながら、手を延ばした。
 が、京助はうべなおう[#「うべなおう」に傍点]とはしない。後ろへ二三歩さがったかと思うと、
「奥様からのご依頼の品で……持って参らなければなりません。大変お大事の品物のようで。……で、たとえ旦那様でも、奥様のお許しの出ないうちは、お眼にかけることは出来ません」
 奥様の忠実なお小姓として、自ら任じている京助としては、こう云うより他はなかったようであった。
 そうして京助の直感力からすれば、どうやら持っているこの包物は、奥様にとっては秘密な品で、旦那様のお眼にかけることを、欲していないもののように思われた。
(とにかく急いで出かけなければいけない)
 で、京助は駆け出そうとした。
 と、松倉屋勘右衛門であるが、いよいよ迂散くさく思ったものと見えて、京助の行く手へ素早く廻ると、両手を大きく左右へひろげた。
「奥の品物なら俺の品物だ! 見せないということがあるものか! ……どうも大きさがあれ[#「あれ」に傍点]に似ている。さあさあ見せろ! 俺へ渡せ! 何だ貴様は手代ではないか! お前にとっては
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