きな顔には、鈎《かぎ》のような鼻が盛り上っているし、牛のようにも太い頸筋には静脈が紐のように蜒《うね》っている、半白ではあったがたっぷり[#「たっぷり」に傍点]とある髪を、太々しく髷に取り上げている、年の格好は六十前後であったが、血色がよくて肥えていて、皮膚に弛みがないところから五十歳ぐらいにしか思われない。松倉屋の主人《あるじ》の勘右衛門であった。勘右衛門がそう云って呼び止めたのであった。
 と、見て取った手代の京助は、不機嫌らしい顔をしたが、不精々々に挨拶をした。
「へい、これは旦那様で。ちょっと出かけて参ります」
 で、手に持った包み物を、胸へ大事そうに抱くようにしたが、云いすてて門の方へ行こうとした。

邪魔がはいる

「お待ち」と勘右衛門は迂散《うさん》くさそうに云った。
「何だ何だ持っている物は?」
 すると京助は首を振るようにしたが、
「さあ何でありましょうやら、とんと私は存じません」
「で、どこへ持って行くのだ」
 いかにも昔は抜け荷買いなどを、お上《かみ》の眼を盗んでやったらしい、鋭い、光の強い、兇暴らしい、不気味な巨眼で食い付くように、勘右衛門は京助が胸へ抱いている
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