襲われた。
時にはこんなように口走ったりした。
「あのお方があんな所にいられようとは! ……俺はとうとう感付かれてしまった。……俺に恐ろしいはあのお方ばかりだ。俺は体を隠さなければならない」
で、恐怖に耐えられなくなって、江戸を発足したのであった。
「長崎へ行こう! 長崎へ行こう!」
(この素晴らしい値打ちのある物を、売るのはいかにも惜しいけれど、あのお方にあのように感付かれた以上は、とうてい持ってはいられない。売って金に代えることにしよう。これほどの物を買い取る者は、長崎の蘭人《らんじん》の他にはない)
で、長崎へ向かったのであった。
しかるに何という事だろう。碩寿翁の乗っている駕籠の前に、いつも一挺の駕籠がいて、ゆるゆると進んで行くではないか。そればかりなら何でもなかった。その駕籠が強い力をもって、碩寿翁の駕籠を支配するではないか。
その駕籠が旅籠屋へ入ったとする。と、碩寿翁の乗っている駕籠も同じ旅籠屋へ入るのであった。
これに気が付いた碩寿翁は、云われぬ恐怖と不思議とを感じて、その駕籠の支配から遁れようとした。
「これこれ駕籠屋、他の旅籠へつけろ」
「へいへいよろしゅ
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