ているらしい。
(若い女子《おなご》を悪者が、誘拐《かどわか》そうとしているのであろう)
こういう場合の常識として、ふと茅野雄はこう思った。
(ともかくも行ってみることにしよう)
で、茅野雄は小走った。
と、その時丘を巡って、一人の女を小脇に抱えた、逞しい武士が現われたが、茅野雄の方へ走って来た。
弦四郎の心! 茅野雄の心!
と、見てとった宮川茅野雄は、立ち向かうように足を止めた。
と、女を小脇に抱えた、逞しい武士は走って来たが、腕前に自信があるがためか、傍若無人の心持からか、遮った茅野雄を無視するように、避けもせずに駆け抜けようとした。
「待て!」
「邪魔だ!」
「こ奴、悪漢!」
「よッ、貴殿は宮川氏か!」
「どなたでござるな?」
「醍醐弦四郎でござる!」
「これはいかにも醍醐氏であったか!」
いつぞや江戸の小石川の、松倉屋勘右衛門の別邸の前で、弦四郎に突然に切りかけられた時には、月こそあったが夜であったので、醍醐弦四郎の顔や姿を、ハッキリと見ることは出来なかった。
で、今、こうやって邂逅《いきあ》った時にも、早速には逞しいこの武士が、醍醐弦四郎であることは気がつか
前へ
次へ
全200ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング