ことであった。
脾腹《ひばら》を岩などで打ったからであろう、茅野雄は谷底で意識を失った。
と、何者か呼ぶ者があった。
「お侍様! お侍様!」
で、茅野雄は蘇生した。
年寄りの夫婦の樵夫がいて、茅野雄を親切に介抱していた。
通りかかった良人《おっと》の方の樵夫が、気絶している茅野雄の姿を、谷底で発見したところから、自分の小屋へ連れて来て、妻と介抱して蘇生させたのであった。
爾来茅野雄は小屋の中で、老樵夫夫婦の厄介になり、傷の養生に精を出した。大した負傷でもなかったので、まもなく恢復することが出来た。
で、樵夫夫婦に礼を述べ、丹生川平への道筋を、夫婦の者に教えられ、今朝方|出発《た》って来たのであった。
茅野雄は曠野の美しい景色に、一種の恍惚を感じながら、長閑《のどか》に先へ歩いて行った。
と、その時行く手にあたって、小高い丘が立っていたが、その丘の背後《うしろ》と思われる辺りから、男達の怒声が突如として起こり、つづいて女達の悲鳴が聞こえた。
で、茅野雄は眼をひそめたが、声の来た方を眺めやった。
間断なく男達の怒声が聞こえ、女達の悲鳴がそれにつづいた。大勢の男女が争っ
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