今日の時間にして四時間余というもの、全く無為に費やされたのであった。
不思議といえば不思議のことで、当時にあっても問題とされたが、しかし正雪は自殺したし、その他随身一同の者もあるいは捕らえられ又は殺され、そうでない者は自殺して、取り逃がした者は一人も無かったので、事はうやむやの間に葬られてしまった。
駿府から発した早打が、江戸柳営に届いたのは、ちょうど暮六つの頃であった。
折から松平伊豆守は、老中部屋に詰めていたが、正雪自殺の報知《しらせ》を聞くと、
「それは真実《まこと》か?」と言葉|忙《せわ》しく、驚いたように訊き返した。
彼にはそれが信じられなかったらしい。引き続いて幾個《いくつ》かの早打が、千代田の門を潜ったが、その齎《もた》らせた報知というはいずれも正雪の自殺したことで、それに関しては最早一点の疑いの余地さえ存しなかった。
「天下のおため、お目出度うござる」
伊豆守はそれを確かめると、同席の人達へこう挨拶して、その儘役宅へ帰って来た。
屋敷へ帰っても伊豆守は、支度を取ろうともしなかった。端座したまま考えている。腑に落ちないことでもあるのだろう。
夜は深々と更け
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