正雪の遺書
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)丸橋忠弥《まるばしちゅうや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)町奉行|石谷左近将監《いしがやさこんしょうげん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
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 丸橋忠弥《まるばしちゅうや》召捕りのために、時の町奉行|石谷左近将監《いしがやさこんしょうげん》が与力同心三百人を率いて彼の邸へ向かったのは、慶安四年七月二十二日の丑刻《うしのこく》を過ぎた頃であった。
 染帷《そめかたびら》に鞣革《なめしがわ》の襷、伯耆安綱《ほうきやすつな》の大刀を帯び、天九郎《てんくろう》勝長の槍を執って、忠弥はひとしきり防いだが、不意を襲われたことではあり組織立った攻め手に叶うべくもなく、少時《しばらく》の後には縛に就いた。
 この夜しかも同じ時刻に、旗本近藤|石見守《いわみのかみ》は、本郷妻恋坂の坂の上に軍学の道場を構えている柴田三郎兵衛の宅へ押し寄せた。
 彼等の巨魁由井正雪は、既に駿府へ発した後で、牛込榎町の留守宅には佐原重兵衛が籠もっていたが
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