しよう? 知己のご恩をどうしよう? ……この大任を委ねて下された貴郎に対する知己の恩! その大任をお引き受けした貴郎に向かっての私の然諾! この信と義とをどうしよう? これは滅多には棄てられない! それではやはり一味徒党を貴郎に内通した上で、私だけ党中から遁れようか? それにしては彼等が私を信じ私を敬い私を慕うこの感情をどうしよう? 彼も棄てられず是も背かれぬ。ここまで考えて来ました時に忽然と胸中に浮かびましたものは、自殺ということでございました。一死もって党内に酬い、一死もって然諾を全うしよう! こう考えたのでございます。
 一旦決心が付いてからは、私の心は豁然と開け一切の煩悶はなくなりました。仕事も捗取《はかど》って行きました。
 こうして私は江戸を立って駿府へ参ったのでございます。駿府の町を焼打に掛け、駿府の城を乗っ取るというのが、表向きの私の意見でしたが、その実そこで心静かに自殺する意《つもり》なのでございました。
 今や旅宿は捕り方によって、十重二十重に囲まれて居ります。容易に踏み込んで来られますのに、それを来ないというものは、私一人を逃がせよという貴郎からの内命があったから
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