りました『これこそ丁度幸いだから、この流れ木で橋を架けることにしよう』――で、橋をかけにかかりましたところ、流れが八筋ありましたので、次から次と流れ木を捨って、八ツながら橋をかけましたそうで。そこで八ツ橋という名が起こって、名所になったのでござります」
 その時十八九にもなりましょうか、美しい娘が菓子皿を持って、奥の座敷から出て来ましたが左衛門の前へ菓子皿を置くと、しとやかに辞儀をいたしました。
 で、左衛門も辞儀を返しましたが、
「ああ……これは……ううむ……悪いぞ」
 と、口の中でこう呟いて、まじまじと娘の顔を見ました。
 人相見の左衛門でございます。何か娘の人相の中に、不吉の形を見たがために、そう呟いたのでありましょう。
 が、彦右衛門には解りませんでした。
「私の娘、蘭でございます」
 こう左衛門にひきあわせてから作男へ指図しようとして、庭下駄を穿くと裏手の方へ足早に行ってしまいました。

     二

 で、縁へは左衛門とお蘭と、二人だけが残ってしまいました。
 と、左衛門でありましたが、何気ない様子で話しかけました。
「――から衣きつつなれにし妻しあれば、はるばる来ぬる旅
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