真間の手古奈
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)燕子花《かきつばた》
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一
一人の年老いた人相見が、三河の国の碧海郡の、八ツ橋のあたりに立っている古風な家を訪れました。
それは初夏のことでありまして、河の両岸には名に高い、燕子花《かきつばた》の花が咲いていました。
茶など戴こうとこのように思って、人相見はその家を訪れたのでした。
縁につつましく腰をおろして、その左衛門という人相見は、戴いた茶をゆるやかに飲んで、そうして割籠のご飯を食べました。
その家はこのあたりの長者の家と見えて、家のつくりも上品であれば、庭なども手入れが届いていました。
「よい眺めでござりますな」
お世辞ともなくこのようにいって、生垣の向うに眺められる八ツ橋の景色を眺めおりました。
左衛門はその頃の人相見としては、江戸で一番といわれている人で、百発百中のほまれがありました。人相風采もまことに立派で、人の尊敬を引くに足りました。で、山間や僻地へ行っても、多くの男女に尊敬され、いつも丁寧にあつかわれました。
この時も左衛門は名のりませんでしたが、神
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