! 人参などは愚かのこと、四目屋の薬など愚かのことで! 利きます利きます非常に利きます! 一粒飲めば胸もとが躍る、二粒飲めばこめかみ[#「こめかみ」に傍点]に汗、三粒飲めばワクワクする。四粒五粒と飲んで行くうちに、悉皆《しっかい》我慢が出来なくなる。さて一袋飲んだとする、この世がかの世か、かの世がこの世か、見境いのないことになり、うっちゃって置けば鼻血が出る。捨てっ放なしにして置けば、……もうこの後は云われない。……やッ」
とにわかに藤兵衛は云って、一方へ眼を走らせた。それからまたも喋舌り出した。
「ご大層もない人がお立ち寄りなされた! この節世上にお噂の高い『館林様』がお立ち寄りなされた! 深編笠、無紋のお羽織、紫柄のお腰の物、黙って道を歩かれても、威厳で人が左右へ除ける! お供はいつもお一人で……おやいけない、行っておしまいなさる!」
「館林様? ふうん、そうか」
公孫樹《いちょう》の蔭に佇んでいた、十二神《オチフルイ》貝十郎は呟きながら、右手の方へ眼をやった。
いかさま深い編笠を冠り、黒の衣裳に無紋の羽織、紫の紐で柄を巻いたきゃしゃ[#「きゃしゃ」に傍点]な大小を穏かに差し
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