なお方がお立ち寄りになった。これは大和屋文魚様で! 蔵前の札差し、十八大通のお一人! 河東節の名人、文魚本多の創始者、豪勢なお方でございますよ。が、その割に花魁《おいらん》にはもて[#「もて」に傍点]ず、そこでかえって稼業は繁昌、夫婦別れもないという次第! 結構至極ではありますが、私の薬をお飲みになったら、もて[#「もて」に傍点]ないお方ももて[#「もて」に傍点]ようというもの! それ精力が増しますのでな。……これはこれは平賀源内様で、ようこそお立ち寄りくださいました。が、どうして平賀様には、奥様をお貰いなさいませんので。それにさいったい平賀様には、何が本職でございますかな? 本草学者か発明家か、それとも山師か蘭学者か? お医者衆なのでございますかな。……」
 ――などと云うような類であった。
 今も彼は十五、六人の、暇そうな見物に取り巻かれ、気忙《きぜわ》しそうに喋舌っていた。
「近来|流行《はや》る『ままごと』の中へ、この売薬を一袋、どうでも入れなければ嘘でござんす! 名に負う蘭人の甲必丹《キャピタン》から、お上へ献上なされようとして、わざわざ長崎の港から、江戸まで持って参った薬で
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