貝十郎は云いつづけて来たが、その間も新八郎の顔を見たり、新八郎の顔を無視し、行列を眼で追ったりした。
が、俄然として貝十郎は叫んだ。
「ソレ、方々! おやりなされ!」
同時に喚く声や叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]する声や、太刀打ちの音が行く手から起こり、新八郎の横手を擦り抜け、二人の同心が矢のように、走って行くのが見てとれた。
「新八郎氏、ついて[#「ついて」に傍点]ござれ」
こう云った時には貝十郎も、行列の方へ走っていた。
つづいて走り出した新八郎の眼には、朧月の下の往来で、例の女の一団と、例の行列の人数とが、切り合っている姿が見えた。
七
新八郎の行きつかない前に、これだけの事件が起こっていた。
まず女の一団が、にわかに刀を抜き揃え、行列の人数へ切り込むや、お勝手箪笥を担いでいた侍と、献上箱を担いでいた侍とが、お勝手箪笥や献上箱を捨てて、これも刀を抜き揃えて、女の一団と切り結んだ。
しかし女の一団の、鋭い太刀風に切り立てられ、二、三間後へ退いた。と、見てとった女の一団は、侍達を追おうとはしないで、お勝手箪笥と献上箱とを、六人で担いで側
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