こう声をかけて、軒下から往来へ出た。
「それじゃ私も」
「では拙者も」
 などと云いながら五人の者は、つづいて軒下から往来へ出た。そういう様子を少し離れた、これも軒下に佇《たたず》んで、雨宿りをしていた三十五、六歳の武士が、狙うようにして見守っていたが、
「またあいつら何かをやり出すな」
 言葉に出して呟いた。それから首を傾げるようにしたが、
「どうもそれにしてもお篠という女が、あのお方の側室《そばめ》にあがって以来、あのお方のやり方が変になられた。……どっちみちお篠に似た女の狂人《きちがい》が、こう輩出したのではやり切れない」
(よし、一つ調べてやろう)
 その日の夕方のことであったが、神田三崎町三丁目の、指物店山大の店へ、ツトはいって来た侍があった。雨宿りをしていた侍である。
「主人はいるかな、ちょっと逢いたいが」
「へい、どなた様でいらっしゃいますか?」
 店にいた小僧が恐る恐る訊いた。
「十二神《オチフルイ》貝十郎と云うものだ」
 主人の嘉助が奥から飛んで来た。
「これはこれは十二神《オチフルイ》の殿様で。……」
「ああ主人か、訊きたいことがある。この頃『ままごと』がよく出るよ
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