えなくなった。遙かの沖へ泳いで行ったからさ。五人の男も見えなくなった。みよし屋の寮へ帰って行ったのだ。我輩はしかし帰らなかった。もう少し見てやろうと思ったからだ。
 四半刻ぐらいも経っただろうか、人魚の姿が見えて来た。渚を目がけて例の娘が、沖から泳いで帰って来たのだ。潮から上がって渚《なぎさ》に立って、手拭いで体を拭き出した時、さすがの我輩も変な気持ちがしたよ。
 な、女は全裸体《すっぱだか》なのだ。月がそいつを照らしているのだ。グーッと手拭いで体を拭く。そんな時女は羞《はず》かし気もなく、片足を上へ持ち上げるのだ。とうとう我輩は呟いてしまった。
「この様子をあの男へ見せてやらなければならない」と。
 衣裳をまとうとみよし[#「みよし」に傍点]屋の方へ、娘は走って行ってしまった。

「十二神《オチフルイ》、お前何んに来たのだ」
 翌日の晩のことだったよ、館林様がこんなように云って、我輩の席へやって来られた。
「丸田屋と深い縁故でもあるのか」
「さようで」と我輩は云ってやった。「丸田屋とは趣味の友でございます」
 事実それに相違ないのだ。我輩は役目こそ与力であれ、いわば身勝手自由勤めの身
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