郎は二十歳の青年で、尾張家|御用達《ごようたし》の大町人、清洲越十人衆の一人として、富と門閥とを誇っている、丸田屋儀右衛門の長男であった。
お小夜はというに十数日前から、潮湯治に江戸からやって来た、筒井屋助左衛門という商人の娘で、年は十九だと云うことであったが、それよりは老けているようであった。珠太郎の家の夏別荘が、大野にあってその別荘へ、珠太郎は潮湯治にやって来ていた。浜で再々お小夜と逢った。並々ならぬその美貌と、洗い上げた江戸前の姿とが、珠太郎を魅さないでは置かなかった。で二人は恋仲となった。
珠太郎は名古屋という退嬰的の都会の、老舗《しにせ》の丸田屋の箱入り息子なので、初心《うぶ》で純情で信じ易かった。お小夜の性質はそれとは異って、計画的のところがあった。何かを珠太郎に対してたくらんでいる――と云ったようなところがあった。
「江戸へ行きましょう」と云い出したのは、珠太郎でなくてお小夜であった。駈け落ちをしようと云い出したのである。
最初珠太郎は顫《ふる》えたいほどにも恐れた。でもいつの間にか従うようになった。
今宵などはお小夜に「いつ?」と訊かれて「いつでも」と云うほどに
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