や、あれは、珠太郎殿ではないか」
 武士は一所《ひとところ》を凝視した。
「あの娘に見とれている」
 富豪の息子とも思われるような、鷹揚《おうよう》で品のある青年が、ずっと向こうの渚の辺で、扇で胸を煽ぎながら、潮湯治場の賑わいを、面白そうに眺めていたが、例の娘が自分の横を、桟橋の方へ歩いて行くのを見ると、ひどく衝《う》たれたというふうに、恍惚《うっとり》とした様子で見送った。
 が、すぐに自分も歩き出し、その娘の後をつけ[#「つけ」に傍点]て行った。
「これは困ったことになったぞ」武士は呟いて考え込んだ。
「おや、二人は話し出したぞ」
 桟橋の上で青年と娘とが、羞《はじ》らいながらぼそぼそと、話しているのが見て取れた。
 ――その日から十日の日が経った。

「いつ?」とお小夜は情熱的に訊ねた。
「いつでも」と珠太郎は熱心に答えた。
 二人の手はしっかりと握られている。それは七月のことであって、十三日の月が懸かっていた。
 媾曳《あいびき》をしている二人の者へも、月光は降りそそいでいた。ここは尾張領知多の郡、大野の宿の潮湯治場(今日のいわゆる海水浴場)で、夜ではあったが賑わっていた。珠太
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