郎の姿を見ると、その男達は逃げてしまった。
「娘ご、どうかな、怪我《けが》はなかったかな」
「はい、ありがとう存じます。おかげをもちまして」
「それはよかった。家はどこかな、送って進ぜる、云うがよい」
「はい、ありがとう存じます。すぐ隣り村でございまして、征矢野《そやの》と申しますのが妾《わたし》の家で……あれ、ちょうど、家の者が……喜三や、ほんとに、何をしていたのだよ……」
「お嬢様、申しわけございません。道で知人《しりあい》に逢いましてな」
手代風の若者が小走って来た。こういう事件のあったのは明和二年のことであって、所は木曽の福島であった。
その翌日のことである。
「どなたか! あれーッ、お助けください!」
若い女の声がした。で、貝十郎は走って行った。駕籠舁《かごか》きが娘を駕籠へ乗せて、今やさらって行こうとしていた。
「こいつら!」と貝十郎は一喝した。駕籠舁きが逃げてしまった後で、貝十郎は女を見た。
「や、昨日の娘ごではないか」
「まあ」と娘も驚いたようであった。「あぶないところを重ね重ね」
「それはこっちでも云うことだが……」
「あれ、幸い家の者が……」
三十五、六歳
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