の乳母らしい女が、息をはずませて走って来た。
「お三保様、申しわけございません」
その翌日のことであった。木曽川の岸で悲鳴がした。
(ひょっとするとあの女だぞ)
思いはしたが貝十郎は、声のする方へ走って行った。筏師《いかだし》らしい荒々しい男が、お三保を筏へ引きずり込み、急流を下へ流そうとしていた。しかし貝十郎の走って来るのを見ると、筏師と筏とは川下へ逃げた。「娘ご、これで三度だな」「重ね重ね、ほんとうにまあ……」「隣り村はなんという村だ?」「駒ヶ根村でございます。……爺や、お前、何をしていたのだよ」「はいはいお嬢様、申しわけもない……」
六十近い下僕《しもべ》らしい男が、汗を拭き拭き走って来た。
(あれ、幸い、家の者が――と云う段取りになったという訳か)貝十郎は思い思い別れた。
(俺を釣ろうとの計画とも見えれば、連続的偶然の出来事とも見える)旅籠屋|舛屋《ますや》へ帰ってからも、貝十郎は考え込んだ。
(よし、面白い、探って見よう)で、翌日駒ヶ根村へ出かけた。
用があって木曽へ来たのではなかった。風流から木曽へ来たのであった。よい木曽の風景と、よい木曽の名所旧蹟と、よい木曽の
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