の位置になった奴だ。……だがそれがどうかしたかな」
「はい。……いいえ」
と曖昧《あいまい》に云った。そう曖昧に云って置いて、お品は愁然とした。
「そのお方のご用人だとかいうお方が……」
「お前を見初めたとでも云うのかな?」
「でも妾はどうありましょうとも。……」
「…………」
この日の午後は晴れていて、この家の裏庭に向いている障子へ、木の枝の影などが映っていた。
その同じ新八郎が、ある夜|往来《みち》で声をかけられた。
「お気の毒なお身の上でございますのね。でも、あの娘ごの罪ではございません。さりとて、松本伊豆守様の罪ばかりとも申されません。元兇は他にあります。……×××町を通り、△△町を過ぎ、□□町を行き抜け、○○町まで行き、そこで認めた異形の人数をどこまでもつけ[#「つけ」に傍点]ていらっしゃいまし。自ずとわかるでございましょう」
それは女の声であった。
(おや?)
と新八郎は驚きながら、声の来た方へ眼をやった。お高祖頭巾を冠っている。上身長《うわぜい》があって肥えている。そう云う女が土塀に添って、一人で立っている姿が見えた。
新八郎は不思議そうに訊いた。
「あなた
前へ
次へ
全166ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング