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 つれてバラードの楽の音が聞こえた。
「あッ!」とその刹那京一郎は、縁に突っ立って動こうともせず、首を伸ばして聞き澄ました。

        七

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(幽暗なる世界なるかな
蠱物《まにもの》めきしたたずまいなるかな
ここにある物は「現在」の頽廃、ここにある物は過去への思慕、ここに住める物は生ける亡霊、この部屋へ入る者は襲わるべし)
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 こういう箴言《しんげん》が壁の一所に、掲げられていなければ不似合いである。――と、そんなように思われるほど、この部屋は陰気で悲し気で、他界的で気味が悪かった。
 京一郎の父で塩屋の主、お才の良人《おっと》の嘉右衛門が、十数年来孤独に住んでいる、庭の奥の林の中の、廃屋の中の部屋であった。万国地図と海図との懸かった、一方の壁へ背を向けて、背革紫檀の古風で寛濶な、肘掛椅子に腰をかけ、嘉右衛門はバラードを弾いている。六十歳ぐらいの年齢《とし》でもあろうか、頭髪は晒らした麻のように白く、頸《うなじ》にかかるまで長かったが、もう一度世に出る機会が来た時、穢れていては恥であると、そんなように思
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