ゃく》、どうでものした[#「ものした」に傍点]他人《ひと》の金だ」
「いかさまそれには違えねえ、では遠慮なく頂戴といくか」
「さあ」
 と云って投げた小判は、初雪白い地へ落ちた。
「ええ何をする勿体《もってえ》ねえ」
 男は屈んで拾おうとした。そこを狙って片手の抜き打ち。その太刀風の鋭さ凄さ。起きも開きも出来なかったかがばとそのままのめった[#「のめった」に傍点]が、雪を掬《すく》って颯《さっ》と掛けた。これぞ早速の眼潰しである。
 武士は初太刀を為損《しそん》じて心いささか周章《あわ》てたと見え備えも直さず第二の太刀を薙《な》がず払わず突いて出た。
「どっこい、あぶねえ」
 と、頬冠りの男は、この時半身起きかかっていたが、思わず反《そ》り返った一刹那、足を外ずしてツルリと辷った。
 して[#「して」に傍点]やったりと大上段、武士は入り身に切り込んだ。と、一髪のその間にピューッと草履を投げ付けた。束《つか》で払って地に落とし、追い逼る間にもう一個を、またも発止と投げ付ける。それが武士の額に当たった。
「フーッ」
 と我知らず呼吸《いき》を吹く。その間にパッと飛び立った男は右手を懐中《ふ
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