梯子幾十となく、甚内目掛けて落ちかかって来た。
「これまで見慣れぬ不思議な捕縛法《とりかた》。これはめった[#「めった」に傍点]に油断はならぬ」
 肩をしたたか[#「したたか」に傍点]梯子で打たれ、甚内は内心胆を冷したが、また少からず感心もした。
 彼は街の四辻へ出た。
「あっ」――と思わず仰天し、甚内は棒のように突っ立ったのである。
 どっちを見ても無数の捕り手がぎっしり[#「ぎっしり」に傍点]詰まっているではないか。
「もういけねえ」と呟きながらもどこかに活路はあるまいかと素早く四方を見廻した。と、正面に立っている古着屋らしい一軒の家の、裏戸が幽かに開けられたが、その際間から手が現われ甚内を二、三度手招いた。
 これぞ天の助くるところと、甚内は突嗟《とっさ》に思案を決めると、パッと雨戸へ飛びかかり、引きあける間ももどかしく家内《なか》へはいって戸を立てた。
 はいった所が土間である。土間の向こうが店らしい。店の奥に座敷があってそこに行燈が点っている。そうして四辺《あたり》には人影もない。
 甚内はちょっと躊躇《ためら》ったが、場合が場合なので案内も乞わず燈火《ひ》のある座敷へつかつ
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