変えた。
「あい、怨みがありますとも。――初雪に怨みがあるのでござんす」こう意気込んで云ったものである。
あまりその声が異様だったので一座の者は眼を見合わせた。一刹那座敷が森然《しん》となる。
「ホホ、ホホ、ホホ、ホホ」
気味の悪いお米の笑い声が、すぐその後から追っかけて、こう座敷へ響き渡った時には、豪雄の勾坂甚内さえ何がなしにゾッと戦《おのの》かれたのである。
夜が更け酒肴が徹せられた、甚内は寝間へ誘《いざな》われたが、容易にお米の寝ないのを見るとちと不平も萠《きざ》して来る。で、蒲団の上へ坐り、不味《まず》そうに煙草を喫い出した。
「お米」と甚内はやがて云った。「心に蟠《わだか》まりがあるらしいの。膝とも談合ということがある。心を割って話したらどうだ。日数は浅いが馴染は深い。場合によっては力にもなろう。それとも他人には明かされぬ大事な秘密の心配事ででもあるかな?」
「はい」――とお米は親切に訊かれてついホロホロと涙ぐんだが、
「お父様の敵《かたき》が討ちたいのでございます」
一句凄然と云って退けた。
「む」と、甚内もこれには驚き、思わず声を詰まらせたが、
「おおそれは勇まし
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