]と包ませ、パラリと下がった後《おく》れ毛を時々掻き上げる細い指先が白魚のように白いのだけでも、男の心を蕩《とろ》かすに足りる。なだらかに通った高い鼻、軽くとざされた唇がやや受け口に見えるのが穏《おとな》しやかにも艶《あで》やかである。水のように澄んだ切れ長の眼が濃い睫毛に蔽われた態《さま》は森に隠された湖水とも云えよう。年はおおかた十七、八、撫で肩に腰細く肉附き豊かではあるけれど姿のよいためか痩せて見える。
お米が座中に現われると同時に、そこに並んでいた女子供は一時に光を失った。ひどく見劣りがするのである。
「お米、機嫌が悪いそうな。盃ひとつ差してもくれぬの」
甚内は笑いながらこう云った。
「…………」お米は何んとも云わなかったが、その代わり静かに顔を上げ、幽かに微笑《ほおえみ》を頬に浮かべた。
「毎年初雪の降る日にはいつも[#「いつも」に傍点]お米さんはご機嫌が悪く浮かぬお顔をなされます」――お島というのが取りなし顔にこう横から口を出す。
「ふうむ、それは不思議だの。初雪に怨みでもあると見える」――無論何気なく云ったのではあったが、その甚内の言葉を聞くとお米は颯《さっ》と顔色を
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