、この時代に珍らしい三層楼で、廓内の様子が一眼に見える。
やがて山海の珍味が並ぶ。
山海の珍味と云ったところで、この時分の江戸の料理と来ては京大坂に比べて、不味《まず》さ加減が話にもならぬ。それでも渦高《うずたか》く鉢皿に盛られて、ズラリと前へ並べられたところは決して悪い気持ちではない。
山本|勾当《こうとう》の三絃に合わせて美声自慢のお品女郎が流行《はやり》の小唄を一|連《くさり》唄った。新年にちなんだめでたい唄だ。
「お品。相変わらずうまいものだな……どれそれでは肴せずばなるまい」
甚内は機嫌よくこう云うと懐中《ふところ》から財布を取り出した。それから座にある誰彼なしに小判を一枚ずつ分けてやった。
「お大尽様! お大尽様!」
みんな喜んで囃し立てた頃には短かい冬の日がいつか暮れて座敷には燭台が立て連らねられた。
この時ようやく甚内の馴染のお米女郎が現われた。
いつも淋しげの女ではあるが分けても今夜は淋しそうに、坐ると一緒に首垂《うなだ》れたが、細い首には保ち兼ねるようなたっぷり[#「たっぷり」に傍点]とした黒髪に、瓜実顔《うりざねがお》をふっくり[#「ふっくり」に傍点
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