だ。それから三枚の羊皮紙へ暗示的の文章を書き記して亜細亜《アジア》方面へ送ったと見える。それで後世智恵者があって羊皮紙の文字に疑いを起こし沙漠へ探検にやって来てあの標柱を掘り出すか、二つの水晶球を得るかすれば、巨億の財産を隠匿《いんとく》した場所を発見することが出来るという、そういう寸法にして置いたらしい。恐らく張というあの支那人も、羊皮紙の一枚を手に入れた幸運な智恵者の一人なんだろう。そして運よくあの男は水晶の球を二つながらここで手に入れたに違いない。しかし僕らも天の助けで、あの標柱をさがし当てた。僕らと張は五分五分だ。沙漠には用がなくなった。舞台は南洋に移ったのだ――それでは僕らも沙漠を横切り支那の本土へ一旦出てさらに南洋へ行こうではないか」
 いかにも愉快そうにこう云ってラシイヌはみんなを見廻した。みんなの顔にも歓喜の情があふれるほどに漲《みなぎ》っている。
 沙漠はその間も、キラキラと幻のように輝いている。
 秘密! 秘密! あらゆる秘密を蔽い隠しているように沙漠は朝陽に輝いていた。

    第三回 世界征服の結社


        十

 北京《ペキン》の春は逝きつつあった。世はもう青葉の世界である。胡沙吹く嵐にもろもろの花がはかなく地上に散り敷いた後は、この世から花は失なわれた。ただ紫禁城の内苑に、今を盛りの芍薬《しゃくやく》の花が黄に紅に咲いているばかり。大総統邸の謁見室に、わずかに置かれた鉢植えの薔薇《ばら》さえ、その色も艶も萎れていた。
 中央停車場に程近い燕楽街の十番地に、木立の青葉に蔽われて巍然と聳《そび》えている燕楽ホテルの、三階の一室に久しい前から逗留している客があった。
 客は男女の二人であったが、男の方は、その顔立ちから、南方支那の産まれと覚しい三十歳足らずの貴公子で、起居振る舞いに威厳があった。しかるに一方女の方は、東洋人には相違ないが、支那の産まれとは思われない。むしろ近東|土耳古《トルコ》辺の貴婦人のような容貌で、態度はきわめて優美ではあるが、北京《ペキン》の生活に慣れないと見えてどこかにギゴチないところがある。口さがないホテルの使童《ボーイ》達は奇妙な取り合わせの二人を評して、広東産の鶏と土耳古《トルコ》産まれの孔雀とを交接《かけあわ》せたようだと云うのであった。
 二人は大変仲がよくて、室にいる時も一緒にいるし戸外《そと》
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