僕は、それ前から――描かざる画家のダンチョン君を、誘惑している貴婦人《レディ》があると君から明かされないそれ前から、君のみならず僕ら皆んなが、袁更生の一団から狙いをつけられているという事を、ちゃあんと知っていたのだよ。どうして僕が知ったかと云うに、教えてくれた人があったからさ。誰かというに他でもない北京《ペキン》警務庁の連中さ。つまり彼らは僕のために暗号電報を打ってよこして、北京《ペキン》警務庁の依頼によって、袁更生の阿片窟を僕が暴露《あば》いたのを怨みに思って僕に怨みを晴らすため袁更生の一味徒党が僕の行先に着きまとい上海に渡ったということを知らしてくれたというものさ。その電報を見た時に僕は直覚的にこう思ったね。いやいや彼らが僕らを追って事実|上海《シャンハイ》へ来ているなら、その目的は僕なんかに危害を加えようというのではなくて、僕らが抱いているある目的――云うまでもなく南洋へ行って埋もれている宝を探そうという、その目的を僕らの手から奪い取ろうということがすなわち彼らの目的であって、僕に向かっての復讐などは眼中にあるまいとこう思ったのさ。何故そう思ったかというにだね、南洋に埋もれている宝について、彼らは僕らとおんなじくらいの知識の所有者だということを、僕が発見したからさ。どこで発見したかというに他ならぬ彼らの阿片窟《アヘンくつ》さ。どうして阿片窟で知ったかというに意外にも阿片窟の女部屋で、沙漠の娘と自称している紅玉《エルビー》という美しい土耳古《トルコ》娘を発見したからに他ならない。どうして紅玉《エルビー》がそんな所に捕虜になっていたかというに袁更生の魔術によって引き寄せられたものと思われるね。一旦魔術にかかったからは、紅玉《エルビー》といえども袁更生の意志のまにまに動かなければならん。で僕は紅玉《エルビー》は問われるままに例の埋もれた宝の所在を袁更生に話したと思う。さてそれが事実だとすればだね、爾余のことは自《おのず》と解釈出来る。真っ先に彼らは僕らの中の誰かをうまく捕虜にして、宝物の所在をもっと詳しく聴き取りたいとこう思って、君に白羽を立てたのさ。君が、モデルにしようとした面紗《ヴェール》の女は囮《おとり》なのさ」
「それにしても面紗のあの女が紅玉《エルビー》であろうとは思いませんでした」
「僕だって最初《はじめ》は知らなかった……本来なれば紅玉《エルビー》は、
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