阿片窟征伐のあの晩に張教仁に助けられて安全の所にいる筈だが、その後袁更生の魔術の手にまた奪い返されたものと思われるね」
「紅玉《エルビー》ばかりか張教仁まで飛び出して来ようとは思いませんでした」
ダンチョンは今でも痛そうに頭の辺を抱えながら呻くような声で云うのであった。
「ほんとにあの男も可哀そうだ。しかし憎めない人間だよ。支那人に似合わない勇気もあって、なかなか面白いところがある」ラシイヌは微笑を含みながら、「いずれあそこへ飛び出したのは紅玉《エルビー》を奪い返すためだったろう。どうやら張と紅玉《エルビー》とは恋人同志のように思われるじゃないか。しかしそんな事はどうでもいい、とにかくこのまま張教仁だって黙って引っ込んではいないだろう。いずれ南洋へ押し渡って僕らと競争するだろう。張の競争は恐ろしくはないが、ちょっと手強いのは袁更生だ。暗夜とは云っても黄浦河の上で堂々と汽船を奪った手並みは敵ながら天晴《あっぱれ》のものだったよ。しかも手段が支那式で滑稽味を帯びていて面白かった」
「どんな手段を使いました?」
「二隻の支那船《サンパン》を綱で繋いで、その綱を水中に張り渡したまま獲物の掛かるのを待つという、これが彼らの手段だったのさ。はたして汽船が引っかかったね。汽船は綱を引っかけたままずんずん先へ進んで行く。汽船が進むに従って二隻の支那船は近寄って来る。とうとう汽船の横腹へ二隻の支那船がピッタリと左右から寄って来てくっついたものさ。一旦くっついた支那船は綱に引かれて容易のことでは汽船の腹から離れようとしない。そこで縄梯子を引っかける。それを伝たわって甲板《かんぱん》の上へ螽斯《ばった》のように躍り込む。拳銃を五、六発ぶっ[#「ぶっ」に傍点]放す。これで仕事は終えたのさ。どうやら僕の見たところでは、敵の大将袁更生殿は、僕の立っていた反対の側の支那船の中にいたらしかった」
「それにしても猩々《しょうじょう》は何んのために箱の中になんかいたんでしょう!」ダンチョンはにわかに眼を丸くして恐ろしそうに叫んだものだ。
「あれか」とラシイヌは頷いて、「あれには僕も驚いた。しかし後になって気が付いたが、魔法化された猩々なのさ。そして袁更生の身代りなのさ。つまり紅玉《エルビー》の監視者なのさ」
「どうも私には解りません」
「どうやら僕の袁更生観は最初とは多少変ったらしい。最初は僕はあの
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