なさるがよい」
月の光から抜け出たような、美しい乙女をたずさえて、純八は何となく心嬉しく、林を抜けて家へ帰ったが、これぞ再び妖怪に憑かれて、身命を失う糸口であった。
奇怪の光景
若い男と若い女が、同じ家に起居し、同じ食物を食べ合っていては、その結果も大方は知れている。深山と名を呼ぶ其乙女と、本条純八とは一月経たぬ中に、切っても切れない由縁《えにし》の糸を、結び合わした身の上となった。
で、純八は其時以来復も幸福の人間になり、生き甲斐ある身の上となったのであるが、今度も老医千斎ばかりは、彼の幸福を喜ばず、深山《みやま》という女を怪んだ。そうして或時こんな事を云った。「人間は勿論|総《あらゆ》る生物には、その[#「その」に傍点]生物としての脈がござる。以前奇怪な托鉢僧を人間ならずと見極めたのも、人間ならぬ不思議な脈を其奴が持っていたからでござる。果して其奴は人間では無うて恐ろしい白蛇でござったわ。――ところで総の生物には、又その各自の生物に応じた一種の呼吸法《いきづかい》が有る物でござる。そこで今度の深山という女じゃが、誠に審《いぶかし》い呼吸法を再々致して見せるでの。どうや
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