、尚優しくいたわった。彼の誠心に感じたものか、娘は軈て乱れをつくろい[#「つくろい」に傍点]、顔に涙を掛けながら、自分の身の上を話し出したが、夫れは人の家に有勝の継母と継子の争いであった。
「家を出た事は出ましたけれど、手頼って行く所も無く、と云うて家へ帰るも厭、それを若し無理に帰りましたならば、継母様は屹度|妾《わたし》を責殺しなさるに違い無い。それより、一層自分から死んでほんとの母様のおいでになる幽冥《あのよ》へ参って暮らそうものと、それで覚悟を極ました所……」――「成程」と純八は仔細を聞くと、弱い一本気の娘心を、憐れまざるを得なかった。「成程、死のうと思われるのも、決して無理とは思われぬが、併し死んでは実も花も無い。それより何時迄も生き永らえて、立派な身分に成り上がり、継母殿の憎い鼻柱をヘシ折る思案をなさるがよい。……手頼るべき縁者ござらぬなら、兎に角拙宅へおいでなされい。どうじゃな。参る気はござらぬかな?」
「はい有難う存じます」――「それでは愈々参られるか?」――「はい、ご迷惑でございませぬなら……」――「他人の難儀を助けるが男子、何んの迷惑致しますものか。――では斯うおいで
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