れば美しい手弱女《たおやめ》で、髪豊に頸足白く、嬋娟《せんけん》たる姿、※[#「臈のくさかんむりが月にもかかった形(臘と同字)」、読みは「ろう」、第3水準1−91−26、133−上15]たける容貌、分けても大きく清らかの眼は、無限の愁いを含んでいて見る人の心を悩殺する。年は凡そ十九ぐらい、高価の衣裳を着ている様子は、良家の令嬢と思われた。
純八の居るのに気が付かぬかして、辻堂の前まで歩いて来ると、うずくまり乍ら合掌し、熱心に何事かを祈っていたが、その声はどうやら泣いているらしい。
やがて彼女は立ち上がった。が復直ぐに地面に坐り、また其処で暫く歔欷《きょき》したが、遂に懐中から懐剣を取り出し、あわや[#「あわや」に傍点]喉へ突き立てようとした。
始終を見ていた純八は、此時思わず身を乗り出し懐剣持つ手をつと抑[#「つと抑」に傍点、傍点位置はママ]えたが、
「この短刀まずまずお放しなされい! 見れば浦若い娘の身で、このような所へ来るさえあるに、自害なさろうとは心得ぬ。死ぬ程の苦痛ござるなら、一応拙者にお話しなされい。及ばず乍らお力にもなり、ご相談にも乗り申そう」――無理に懐剣を奪い取り
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