|※[#「倏の俗字(犬が火)」、第4水準2−1−57、127−下1]忽《しゅっこつ》[#底本では「《しょこつ》」]として消亡す。(下略)」
つまり恋しい笹千代も恩愛限り無い吉丸さえ、彼は失って了ったのであった。如何に彼が驚いたか、どんなに彼が悲しんだか、敢てそんな事は筆を改めて説明するにも及ぶまい。――斯うして彼は一切の栄華、総ての物を失ったのであった。
美人と童子
一朝にして王侯の生活、再転して乞食の境遇。昨日の繁栄は今日の没落、本条純八は暫くの間は夢|現《うつつ》の境に彷徨したが、此の著しい変転は却って彼には良薬となり、俄然精神が一変し、現世の悦楽を求むる代りに、虚無融通の神仙道に、憧憬の心を運ぶようになった。
昔のままに残っている先祖から譲られた廃屋《あばらや》に住み、再び近所の子供を集めて、名賢の教えを説く傍山野の間を跋渉して、努めて心胆《こころ》を鍛錬した。
喜んだのは医師千斎で、
「これこそ誠の生活というものじゃ」
斯う云って彼は元通り繁々足を運ぶようになった。筒井松太郎は云う迄も無く無邪気な仲のよい友達として、毎日のように訪れて来る。一度魔道に入り乍ら、
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