の他は、誰だってはいれねえところなのさ。……はいったが最後天罰が……だが待てよ、そこから手が出た? とするとあの女の手なんだろうが、俺《おい》らあの女とは今しがたまで、別棟の主家《おもや》で話していたんだ」
 後の方はまるで独言《ひとりごと》のように云って、もう一度その男は振りかえって、その建物を眺めましたが、
「馬鹿な、そんなことがあるものか! ……それはそうとオイ重助さん、五反麻の生活《くらし》面白いかね」
「え?」とわたしはギョッとしましたが、「へい……何んでございますか」
「あのお方たっしゃかい」
「え? へい……あのお方とは?」
「ご上人様のことよ、しらばっくれるない」
「…………」
「アッハッハッ、まあいいや。……おっつけお眼にかかるから」
 云いすてるとその男は飛ぶような早さで、町の方へ走って行きました。
 道々考えにふけっておりましたので、斗丈様の庵室へ行きついた時には、初夜《しょや》近い時刻になっていました。小門をくぐろうといたしました。
 と、どうでしょう手近のところから、呼子《よびこ》の音が聞こえて来たではありませんか。
「おや!」と思わず云いましたっけ。
 と、
前へ 次へ
全41ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング