生垣と植え込みとによって、こんもり囲まれている庵室を眼がけて、数十人の人影がどこからともなく現われ、殺到して行くではありませんか。
(捕吏だ!)と私は突嗟に思いました。(ご上人様を捕えに来た捕吏たちだ!)
 そう思った私を裏書きするように、
「方々捕吏だ、捕吏でござるぞ!」と叫ぶ、斗丈様の狼狽した声が聞こえて来ました。
 それに続いて聞こえて来たのは、戸や障子の仆れる音、捕吏たちの叫ぶ詈り声などで、その捕吏たちが庵室へ駈け上がり、奥の方へ乱入して行く姿なども、影のように見えました。わたしは夢中で走って行きました。
 でも庵室の縁の前まで行った時、抜き身を揮《ふる》って喚く北条右門様や、鞘のままの大刀を左手に提げ、右手で捕吏たちを制するようにしている、わたしの見知らない若いお侍さんや、顔色を変えている斗丈様、そういう方々によって警護され、しかし大勢の捕吏たちによって、奥の部屋から引き出されたらしい、ご上人様の法衣姿《ころもすがた》が、勿体なく痛々しく現われて来ました。
(ああとうとうお捕られなされた?)
 と、私は眼をクラクラさせ、地面へ膝をついてしまいました。
 そういう眩んだわたしの
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