を明かし、たった今眼醒めたところであった。
まだ彼女の精神は、朦朧としていて正気ではなかった。
島田の髷が崩れ傾《かしが》り、細い白い頸《うなじ》にかかってい、友禅模様の派手な衣裳が、紫地の博多の帯ともども、着崩れて痛々しい。素足に赤い鼻緒の草履を、片っぽだけ突っかけている。夜露に濡れたため衣裳はしおたれ[#「しおたれ」に傍点]、茨や木の枝にところどころ裂かれ、手足も胸元も薮蚊に刺され、あちこち血さえ出していた。
そういう源女は身を横倒しにし、草の上に延びていた。秋草の花――桔梗や女郎花や、葛の花などが寝ている源女の、枕元や足下に咲いていた。栗色の兎がずっと離れた、萩の根元に一匹いて、源女の方を窺っていた。
彼女の頭上にあるものといえば、樺や、柏や、櫟《くぬぎ》や、櫨《はぜ》などの、灌木や喬木の枝や葉であり、それらに取り縋り巻いている、山葡萄や蔦や葛であり、そうしてそれらの緑を貫き、わずかに幽かに隙《す》けて見える、朝の晴れた空であった。
薮を透して日の光が、深い黄味を帯びて射し込んで来ていて、地上の草や周囲《まわり》の木々へ、明暗の斑《ふち》を織っていた。
無心――という
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