剣侠
国枝史郎

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)杉浪之助《すぎなみのすけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)信州|高島《たかしま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]
−−

木剣試合


 文政×年の初夏のことであった。
 杉浪之助《すぎなみのすけ》は宿を出て、両国をさして歩いて行った。
 本郷の台まで来たときである。榊原式部少輔《さかきばらしきぶしょうゆう》様のお屋敷があり、お長屋が軒を並べていた。
 と、
「エーイ」
「イヤー」
 という、鋭い掛声が聞こえてきた。
(はてな?)
 と、浪之助は足を止めた。
(凄いような掛声だが?)
 で、四辺《あたり》を見廻して見た。
 掛声はお長屋の一軒の、塀の内側から来たようであった。
 幸い節穴があったので、浪之助は覗いて見た。
 六十歳前後の老武士と、三十五六歳の壮年武士とが、植込の開けた芝生の上に下り立ち、互いに木剣を構
次へ
全343ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング