り二握りを距て、刀を構えて静まり返り、今度こそ切るぞ! からかう[#「からかう」に傍点]のは止めだ! こう決心をしたらしく、肺腑を抉るような鋭い眼で、主水の眼を睨み詰めた。
切先と眼とに圧せられ、主水はさながら蛇に魅入られた蛙、それかのように居縮んでしまった。同じく中段に構えていたが、刀身が次第に顫えを帯び、下へ下へと下ろうとする。ハッハッと呼吸が忙《せわ》しくなり、睨んでいる眼が霞もうとする。流るるは汗! 上るは血液!
と、フーッと主水の精神が、体から外へ脱けるように思われ、心がにわかに恍惚《うっとり》となった。気負けの極に起こるところの、気死の手前の状態であった。
が、その時陣十郎の刀が、さながら水の引くがように、スーッと静かに冷たく、左の方へ斜に引かれた。
あぶない! 悪剣だ! 「逆ノ車」だ! 剣豪秋山要介さえ[#「さえ」は底本では「さへ」]、破りかねると嘆息した、陣十郎独得の「逆ノ車」だ! その序の業だ! あぶないあぶない! 釣り出されて踏み込んで行ったが最後刀が車に返って来る! が、それも序の釣手だ! その次に行なわれる大下手切り! こいつだけは受けられない、ダーッと
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