る。……追い詰めたあげくどうするか? さあそのあげくどうするか?」
 云い云い陣十郎は言葉通り、左足を進め左足を進め、一歩一歩ジリリ、ジリリと、主水を薮の方へ追い詰めて行った。
 主水は次第に後へ下った。
 飛び込もうとしても飛び込めず、切りかかろうとしても切りかかれない。
 業の相違、伎倆《うで》の差違、段違いの悲しさは、どうすることも出来ないのであった。


 追い詰められながらも妹のことを、主水は暇なく思っていた。
 多勢に一人、しかも女、どうしただろうどうしただろう? ……叫声がする! 悲鳴が聞こえる! ……殺されたのではあるまいか? ……背後《うしろ》は大薮、それに遮られて、俺の姿は見えないはずだ。案じていよう悶えていよう。……
 上段に冠っていた陣十郎の刀が、忽然中段に直ったのは、主水が全く薮の裾に追い詰められた時であった。
「さあ追い詰めた! さてこれから……」
 陣十郎はまた喋舌り出した。
「退くことはなるまい、切り込んで来い、親の敵のこの拙者だ、さあ討ち取れ、切り込んで来い!」
 主水の咽喉へ切先を差しつけ、左の拳を丹田より上、三寸の辺りにぴたりとつけ、しかも腹部よ
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