五人の者は、耕地を横切り、丘、森、林、畦や小川を飛び越え躍り越え、どことも知れず走り去った。
大薮の陰に刀を構え、睨み合っている陣十郎と主水、二人の構えには変わりはなかった。
上段に振り冠った陣十郎は、その刀を揺すぶり揺すぶり、命の遣り取りのこの際にも、大胆不敵悠々寛々一面相手の心を乱し、あせらせ[#「あせらせ」に傍点]焦心《じら》せ怒らせようと、憎々しく毒々しく喋舌りつづけた。
「さあさあ主水切り込んで来い。籠手を打て、右籠手を! と拙者は引っ外し、大きく右足を踏み出して、貴様の肩を叩き割る。……それとも諸手に力を集め、胸元へ突を入れて来てもいい。と拙者はあやなし[#「あやなし」に傍点]て反わし、あべこべに貴様の咽喉を刺す……が、貴様も多少はできる腕、思うにその時右足を引き、拙者の切先を右に抑え、更に左足を引くと共に、又切先を右に抑えよう。アッハハハ、畳水練、道場ばかりで試合をし、真に人間を殺したことのない、貴様如き惰弱の武士の、やり口といえば先ずそうだ。……そこで拙者はどうするか? ナーニそのつど逆を取り、左足を進め右足を進め、位詰めにしてグングン進み、貴様を追い詰め追い詰め
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