た、猪之松の乾兒の八五郎であった。
「いい所で逢った、さあ頼む。……事情は後でゆっくり話す。……今は頼む、加勢頼む。……玉を……女だ……女を一人……担いで行くんだ、一緒に来てくれ」
息せき[#「せき」に傍点]喋舌《しゃべ》る八五郎の言葉に、猟り立てられた四人の博労は、
「ようがす、やりやしょう、合点だ! ……誘拐《かどわかし》と来ちゃアこっちの領分、まして高萩のお身内衆のお頼み恐れるところはありゃアしねえ。それ行け、ワ――ッ」と走り出した。
来て見れば先刻の侍は居らずに、藤作一人が途方に暮れたように、気絶している女の周囲を、独楽のようにグルグル廻っていた。
そこへ押し寄せた五人の同勢、
「この女だ、それ担げ!」
ムラムラと寄ったのに驚いた藤作、
「こいつらア……馬方め……八五郎もか! ……また来やがったか、汝《おのれ》懲りずに」
喚いて脇差を引っこ抜き、振り舞わしたが多勢に無勢、すぐに脇差は叩き落とされ、それに博労の喧嘩上手、土を掬うとぶっ[#「ぶっ」に傍点]掛けた。
口に入り眼に入った。
「ワ――ッ、畜生! 眼潰しとは卑怯な」
倒れて這い廻る藤作を蹴り退け、澄江を担いで
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