村だア!」
それまで側《そば》に佇んで、気を揉んでいた藤作が叫んだ。
「このお女中を引っ担ぎ、連れて行こうとしたからにゃア、先刻《さっき》の奴らァ陣十郎とかいう、悪侍の一味でごわしょう。その先刻の奴らといえば、高萩村の猪之の乾兒で。ですから恐らく陣十郎って奴も猪之の家にいるのでござんしょう。ということであってみれば陣十郎とかいう悪侍、主水様とかいうお侍さんを、高萩村の方角へ……」
「いい考え、そうだろう。……では拙者はその方角へ……藤作殿頼む、澄江殿の介抱! ……」
「合点、ようがす、貴郎は早く……」
「うむ」と云うと股立取り上げ、大小の鍔際束に掴み、大薮のある方角とは、筋違いの方角高萩村の方へ、浪之助は耕地の土を蹴り、走った、走った一散に走った。
この時上尾宿の方角から、馬大尽を迎えに出、慰労とあって猪之松により、乾兒共々上尾宿の、山城屋で猪之松に振舞われ、少し遅れてその山城屋を出た、高萩村に属している、四人の博労が酔いの覚めない足で、機嫌よくフラフラと歩いて来た。
7
それへぶつかっ[#「ぶつかっ」に傍点]たのは八五郎であった。
浪之助のために威嚇され、盲目滅法に逃げて来
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