の心の中には、自分達二人は許婚《いいなずけ》である、良人《おっと》となるべき主水が旅へ出、敵を捜索するとなれば、幾年かかるかわからない、その間寂しい家に籠って、イライラして帰りを待っているより、自分も未熟とはいいながら、田宮流小太刀の教授を受け、その方では目録を取っている、まんざら迷惑の足手まといとはなるまい、その上殺されたお父様は、義理深い養父であり、かつは舅父《しゅうと》となる人であった、実の父親へ尽くすよりも、もっと尽くさなければならないお方だ、そのお方が一半は妾のために、あのような御最期をお遂げになった、どうでも自分としては敵を討ちたい、それにお母様は数年前に死なれ、残って孝養する必要はない、かたがたどうでも主水と一緒に、旅へ出たいという考えが、濃く強くあるのであった。
 主水としても拒絶はしたものの、実は一緒に旅へ出てもよい、なろうことなら一緒に行きたいと、そう思っているのであった。行く行くは夫婦になる二人である、その一人を家へ残して置いて、帰期の知れない旅へ出る、幸い敵に巡り合っても、返り討ちにならないものでもない、そういう旅へ出て行くことは、心にかかる限りである。二人一緒
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