に行ったなら、苦しい時にも悲しい時にも、分け合って慰め合えるではないか。足手まといになるどころか、妹は小太刀ではかなりの使い手、現にあの夜あんな場合に、簪を抜いて男の急所、陣十郎の足の甲を突いて、急難を免がれたほどである。敵陣十郎はどうかというに、甲源一刀流では剣鬼のような使い手、自分のように新影流で、ようやく仮免許を受けたような者とは、段違いの名人である。自分一人では討つに難い、せめて妹が側《そば》にあれば――だから一緒に旅に行きたい、そう願っているのであったが、一藩の者からうしろ指をさされ、あれ見よ鴫澤主水こそは、親の敵を一人では討てず、女手を借りたわと云われることが、心外なことに思われて、断行することが出来なくなったのであった。
「主君《との》の内意をお伺いして」
 よし[#「よし」に傍点]と云ったら連れて行こう。こう不図《ふと》主水は考えつき、上役を介して伺いを立てた。
 と、主君が仰せられた。
「親の敵を二人の子が討つ、しかも一人は女とのこと、健気である。仕《つかまつ》れ。聞けば澄江は小太刀を使うとのこと、足手まといなどにはならぬであろう」
 さらに奥方よりは澄江に対して、守
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