ては、なすべき事は一つしかなかった。
敵討《かたきうち》!
そう、これだけであった。
父の葬式《そうしき》を出してしまうと、すぐに敵討のお許しを乞うた。
「よく仕《つかまつ》れ」と闊達豪放の主君、榊原式部少輔《さかきばらしきぶしょうゆう》様は早速に許し、浪人中も特別を以て、庄右衛門従来の知行高を、主水に取らせるという有難き御諚、首尾よく本望遂げた上は、家督相続知行安堵という添言葉さえ賜った。
「お兄様|妾《わたくし》も是非にお供を」
いよいよ旅へ出るという間際になって、こう澄江が云い出した。
「お父上が陣十郎に討たれました。その原因の一半は、妾にあるのでござりますから」
こう澄江は主張するのであった。
「女を連れての敵討の旅、それはなるまい」と主水は拒んだ。
「主君への聞こえ、藩中の思惑、柔弱らしくて心苦しい」
こう云って主水は承知しなかった。
「宮城野《みやぎの》、しのぶ[#「しのぶ」に傍点]は女ばかり、姉妹《きょうだい》二人で父の敵を、討ち取ったではござりませぬか」
2
だから私達兄妹二人で、父の敵を討ち取ったところで、不思議はないというのであった。
そういう澄江
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