、この夜廻りが六尺棒でお前の足を払おうとしたので……」
「飛び出してグッサリ横ッ腹をか」
「とんだ殺生をしてしまったのさ」
「お蔭で俺は助かった」
「わたしゃアお前の命の恩人、これから粗末にしなさんな」
「と早速恩にかけか」
「かけてもよかろう礼を云いな」
「いずれゆっくりと云うとしよう」
「そのゆっくりが不可《いけ》ないねえ」
「そうだ、ゆっくりは禁物だ。……どうともして早くここを遁れ。……しかし八方取りまかれてしまった」
「いいことがある、姿を変えな」
「姿を変えろ? どうするのだ?」
「夜廻りの野郎の衣装を剥ぎ……」
「成程こいつア妙案だ」
 物陰にズルズルと夜廻りの躰を、陣十郎は引っ込んで、自分も物陰へ隠れたが、出て来た時には陣十郎の姿は、武士から夜廻りに変わっていた。大小は脇腹へ呑んだと見え、鍔の形だけふくらんで見えた。
「さてこうやって頬冠りをし、お前という女と手を取り合ったら、ドサクサまぎれの駈落者と、こう見られまいものでもないの」
「あたしゃアちょっと役不足さ」
「贅を云うな。……さあ行こう」
 歩き出したところへ四五人の武士が、警《いまし》め合いながら近寄って来た。

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